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靖 伊藤

AHPコンピテンシーコラム第127話

今回は、“熟成”の事業例を通して2つのコンピテンシーを考えてみたいと思います。

かなり前の話になりますが、朝の情報番組“がっちりマンデー”で“熟成”がテーマに取り上げられていました。牛肉、昆布、豆、木材の4つの熟成です。この中で、私が興味を持ったのは昆布と木材です。

先ず昆布ですが、これは福井県敦賀市のメーカーさんの事例で、利尻昆布を熟成させることで生臭さを取り除き、まろやかさを増した昆布を京都の伝統ある料亭に提供しているというものです。これは昔、北海道から京都に昆布を運ぶには船で敦賀迄運びそこから陸路を使っていましたが、冬場には雪の為に敦賀で足止めを食らい、敦賀で一冬を越す事もあったそうです。ところが、一冬を越した昆布で出汁を取ってみると、新昆布に比べてまろやかさが増している事が分かり、熟成が始まったというもので、今では長いもので平成元年から寝かせてあるものもあるとのことです。

一方、木材は、昔から木材を水につけて貯木する事が行われ、これが水中乾燥として行なわれていました。しかしながら、最近では効率化の為に水中乾燥が廃れていたのですが、水中乾燥卯を行う事で、材質が向上することに目を付けた木材会社の社長が水中乾燥を復活させ、通常より少し高い木材であるにも関わらずニーズが高まっているというものです。

昆布については、 “災い転じて福と成す”の例であると言えるでしょう。禍によって生じた結果を「残念。仕方がない」と諦めるのではなく、「1年置いたらどうなっているのだろう」と興味を持ってその結果を確認し、その結果を新たな商品に繋げていったと言えるでしょう。

一方、木材についても、以前行われていた乾燥法に興味を持ち、その乾燥法と現在の乾燥法の結果の違いを見出し、付加価値の高いものを求める顧客のディライト(潜在的欲求)に対応する商品を提供しているのだと考えます。

この2つ事象では次の2つの共通する点が挙げられると思います。

一つは、起った事象に興味を持ち、それについて突き詰めて考えていったという点です。これは“自分の業務環境において、現状や問題などを正確に理解、整理、分析し、自分としての解決策を考案する能力”である分析的思考力の表れでしょう。そして、もう一つは、今までのやり方に固執せず、新たな方法を探求したという点で、これは“状況に応じて、既存の方法にとらわれず、全く新しい方法を考案し実行したり、既存の方法でもやり方に改良を加えながら臨機応変に対応する能力”である柔軟性が具現化されたものと考える次第です。

経営者や開発者のコンピテンシーとして欠かせないのは、色々な事を一つの視点から見るだけでなく、時として今までとは違った視点から見てみようとする事ではないでしょうか。

 

 

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