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AHPコンピテンシーコラム第141話

靖 伊藤

平常時には、素晴らしい成果を上げていても、通常とは異なる状態、例えば、倒産や命にかかわる危機が迫ると、力を存分に発揮できない事がよくあります。今回は以前も取り扱った飛行機トラブルに遭遇し、見事に乗客・乗員の命を守りぬいた機長をお話です。

これは、先日のテレビで放映されたものですが、1983年にカナダで起こった飛行機トラブルで、新しいシステムのチェック装置の不備により、燃料切れとなり、全てのエンジンが停止したにも関わらず、途中にある使用されていない空軍基地に無事不時着したというものです。トラブルが発覚した時点で、目的地までは100kmで、この飛行機が飛行可能な距離は70kmでした。そして空軍基地への距離は40km。ただ、この空軍基地に着陸するためには、行動をかなり下げる必要があり、それを行うことにより、飛行機は墜落する危険性があるとのことでした。そこで、この機長が取った策は蛇行飛行を行うことで、これにより40kmの距離を70kmに近付けたとのことです。しかし、空軍基地に近づいたときに、次の問題が発生します。空気の抵抗で前輪が十分に出ない状況で着陸を余儀なくされたのです。また、燃料切れのために逆噴射が使えず、早く降り過ぎると、地面に激突、遅すぎるとオーバーランで炎上という2つの危機が待ち構えていました。そこで、この機長は、奇跡の着陸といわれる方法を取りました。グライダーが着陸するときに、使う方法で、機体を横にして、空気抵抗を増やし、着陸寸前に機体とまっすぐに戻すというものですが、今まで航空機でこの着陸をした例はなかったということです。この機長は趣味でグライダー飛行を行っていたため、最後の手段として、この方法を考え、見事にそれを成功させたのです。

ここでこの機長が発揮したコンピテンシーを考えてみたいと思います。

まず、自分の業務環境において、「現状や問題などを正確に理解、整理、分析し、自分としての解決策を考案する能力」である『分析的思考力』の発揮が見られます。トラブル発生から着陸まで、わずか17分の間に、管制塔とのやり取りや自身の知識を終結して、無事着陸したのは、「状況や環境の分析から表面的なものではなく、潜在的なものをも見つけ出し、実行可能な対応策を自分で考え出している」レベルが発揮されていると考えます。そのベースとなるのが、「自分の専門的な知識やスキルを自ら積極的に拡大し、それを仕事に活用したり、周囲の人たちにも広めたりする能力」である専門知識拡大活用力です。前代未聞のトラブルに遭遇しながら、趣味であるグライダー操縦術を含めて「特定領域において、独自の専門的な理論を構築し、社内外からその領域の専門家であると認識されている専門性を身に付け実際に仕事で活用できている」レベルの発揮が見られます。そして、これらの行動を支えた2つのコンピテンシーが挙げられます。一つは、何が何でも乗客と乗員を無事に目的地に届けるという使命感に基づく行動は、「自分自身や組織全体のチャレンジングな目標を、自ら設定し、それを達成するまであらゆる手段を駆使して取り組み、目標を達成しても更に高いレベルを狙うなど、常に高い成果を生み出そうとする能力」である達成思考力の表れであり、矢継ぎ早に発生したトラブルに対して冷静に対応したのは、「ストレスの高い状況の中でも、自分の感情の起伏を抑え、常に前向きで安定した行動を保つ能力」である自制力(セルフコントール)の最も高いレベルが発揮されていると考えます。

昨今、シルバー人材の活用法が各企業の大きな課題となっています。高い専門能力だけではなく、Aさんのように様々なコンピテンシーを発揮するシルバー人材は企業にとって大事な戦力になると考える次第です。

 

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