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靖 伊藤

AHPコンピテンシーコラム第147話

敏腕の『営業マン』というと、雄弁で押しが強いというイメージが浮かびますが、実際にはそれとは全く違ったタイプの方もいます。私が最初に車を購入した時の自動車販売店の営業マンSさんもそんな人でした。ある日、私はふと思い付いて、ある自動車販売店を訪れました。その時点ではすぐに車を買いたいというのではなく、情報収集をしておこうという気持ちでした。ところが、その販売店で私を担当してくれた営業マンは自社の車の話ばかりをする人で、一旦、見積書は貰いましたが、その足でその近くにあった別の自動車販売店に立ち寄りました。その販売店で出会ったのがSさんでした。そこで、私が何故、車を探しているのかを話したところ、Sさんは特に口も挟まず、話をよく聴いてくれました。その延長線上で、以前、私が商社で自動車部に所属しており、その仕事で海外駐在をしたことを話すと、非常に興味を持ち、質問も交えながら話を聴いてくれました。結果としては、海外で私が乗っていた車の日本バージョンはこの販売店では扱っていませんでしたが、それに近い車種でこちらが考えている価格帯の車を色々紹介してくれて、見積書を作成してくれました。そのとき、私は、すぐに買わなくても良いと思っていることをSさんにも話していましたので、Sさんは無理強いをする様子もなく、私は店を後にしました。翌日の日曜日に、ドアのチャイムが鳴り、出てみると、Sさんが資料をもって来ていました。昨日、話した内容に関する追加資料を持ってきたとのことで、Sさんはそれを渡すと早々に帰りました。資料を見てみると、昨日、私が話したことに関する内容が書かれたもので、これを見ているうちに、「この人から買っても良いな」という気持ちになり、次の週末に再度、その販売店に足を運び、最初に見積もりを貰った車種だけでなく、色々な車の説明を訊いた結果、初めに考えていたより少し上の価格帯の車を購入することになったのです。

営業の基本はお客様との信頼関係の構築であり、その信頼の基に、お客様の真に求めるものをきちんと説明して、納得していただき、購入していただくことです。

Sさんは、私に対して、その2つのステップを踏んで車の売り上げにこぎつけていたと思います。

ここで、Sさんの発揮したコンピテンシーを考えてみたいと思います

まず、初対面の段階で、売り込むことをせず、私の話をよく聴き、その中で収集した情報をもとに見積書を作成し、また翌日、追加資料を持ってきたことは、「単に言葉や態度で伝えられたものだけでなく、言外にある意味も含めて、相手の気持ちや考えを、自分の考えや感情で歪めることなく、その通りに正確に理解していく能力」である『対人理解力』と「直接に顧客に接し、顧客が求めているものを、敏感に且つ正確に把握し、対応していく能力」である『顧客志向力』の表れであり、『対人理解力』は私の昔話から私がほしいと思っている車の内容を推察してそれに関する資料などを用意しており、これは「言葉では明確に表現されない場合でも、相手の雰囲気から正しく理解している」のレベルと、『顧客志向力』は「顧客の言葉だけでなく、様子や雰囲気から、相手が求めているものや不満な点を敏感に察知し、対応している」のレベルが発揮されていると考えます。これらの行動により、私に、」「この人からなら買っても良いな」という気持ちにさせたのは、「社内外の関係者との間に、利害や取引的な関係を入れずに、とにかく親しい人間関係を作り上げていく能力」である『関係構築力』の「仕事に全く関係のない話題を気楽に話し合える関係を構築している」レベルが発揮されていると考えます。そして、最終段階まで、技術的な内容だけでなく、私の態度に応じた対応で私の心を購入に導いており、これは、「社内外の関係者に対して、あらゆる説明の方法やツールを駆使しながら、こちらの考えている通りに相手が納得し、動いてもらうように影響を与えていく能力」である『対人影響力』「理論武装、説明資料などを準備するだけでなく、相手の人間的な特性を敏感に見抜き、その特性に合わせた説得方法を事前に綿密に準備をした上で、様々な手管を用いて、相手が聞き入れるまで諦めずに説得を続けている」レベルが発揮されていると考えます。

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