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AHPコンピテンシーコラム第156話

靖 伊藤

前回のコラムでは、グローバル人材に求められる要件として、『気が利く』ことについて触れました。この『気が利く』というのは、「相手と自分の文化の違いを理解して、皆が心地よいパフォーマンスを出せる環境を作り出すことができる」ことです。しかしながら、グローバル人材というと、一般的には、コミュニケーション術に長けていること、つまり、語学に堪能で、自分の意見を明確に表現できる人であるとの印象が強いかと思います。ただ、ここで考えなくてはならないのが、コミュニケーションに長けているとはどういうことを指すのかということです。コミュニケーションの目的としては、「相手を理解すること」と「相手に自分を理解してもらう事」の2つが挙げられます。この「相手に理解してもらう」ということは、ただ理解してもらうだけでなく相手に動いてもらうことです。そのためには、一般的に考えられている語学が堪能で、自分の意見を明確に表現できるだけで、相手を動機付けることはできるのでしょうか?

実は、私が若い頃、プラントビジネスに従事していましたが、プラントに納めた機械のトラブルでアメリカからエンジニアを迎えて、日本のメーカーさんのエンジニアAさんと共に交渉に当たったことがありました。Aさんは決して語学が堪能な方ではなく、片言の英語でしたが、臆することなく、交渉に臨まれ、相手の苦情を真摯に受け止め、理解が難しいことは通訳を通してだけでなく、自分の言葉で何度も確かめると共に、自分の話したことを相手がきちんと理解しているかどうか、何度も確認して交渉を進めました。その結果、2日間でトラブルの原因やその対処について相手の満足のいく結果で終了することが出来ました。勿論、私も出来る限りの通訳のサポートをしたつもりですが、成功の鍵はAさんが相手の考えていることを何度も確認し、自分の言っていることを相手が理解しているかどうかを確認したことにあったと考えています。

如何に語学に堪能であっても、相手の考えていることを表面上の言葉だけで捉えて深く聴くこともなく、自分の意見を滔々と話すことで、誤解を生じていたケースを何度も見たことがあります。また、自分自身もそのような経験をしたことがあります。一方、Aさんのように、いくら片言であっても、自分の理解を確かめるために、しっかりと傾聴した上で、不明点を何度も確認し、自分が話したことについても相手が真意を理解しているかどうかを何度も確かめることでトラブルの解消に漕ぎ着けたケースも多々あります。

真のグローバル人材には、「単に言葉や態度で伝えられたものだけでなく、言外にある意味も含めて、相手の気持ちや考えを、自分の考えや感情で歪めることなく、その通りに正確に理解していく能力」である『対人理解力』が備わっていることが必須と考える次第です。

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