AHPコンピテンシーコラム第１６３話

以前、ベンチャー企業を起業する人のコンピテンシーに関わる仕事に従事したことがあります。

その際、感じたことは、起業に必要なコンピテンシーと、起業した後、企業をマネジメントしていくために必要なコンピテンシーは少し異なるということです。そして、起業者でそれを意識している人が当時は少なかったと感じています。

起業する為には、経済環境の変化を先読みし、将来的にお客様が求めるものを他人に先んじて製品化し、提供していくことが必要です。このために必要なコンピテンシーとしては、「直接に顧客に接し、顧客が求めているものを、敏感に且つ正確に把握し、対応していく能力」である『顧客志向力』、「自分の業務環境において、現状や問題などを正確に理解、整理、分析し、自分としての解決策を考案する能力」である『分析的思考能力』、「様々な事象間に共通する意味や関係を把握したり1つの事象から連想的に別の新しい概念を見出したりして、新しい考え方やビジネスモデル、独自の理論を作り上げていく能力」である『概念的思考能力』、「あらゆる情報源や情報ﾙｰﾄを自ら開拓し、仕事で必要となる情報を誰よりも早く正確に、且つ幅広く集める能力」である『情報探求力』が必要となり、「自分自身や組織全体のチャレンジングな目標を、自ら設定し、それを達成するまであらゆる手段を駆使して取り組み、目標を達成しても更に高いレベルを狙うなど、常に高い成果を生み出そうとする能力」である『達成思考力』が必要となります。勿論、これらの商品を販売していくとなると、「社内外の関係者との間に、利害や取引的な関係を入れずに、とにかく親しい人間関係を作り上げていく能力」である『関係構築力』も必須です。これらのコンピテンシーは、その後も引き続き必要となります。

一方、起業した後、増える業務を一人ではこなしきれなくため、人を雇うこととなり、協業する人数が増え、組織化することが必要になると、今まで述べてきたコンピテンシーだけでは足りなくなります。現在の複雑性に対応するためのマネジメントには、社員の状況や気持ちを把握する為に「単に言葉や態度で伝えられたものだけでなく、言外にある意味も含めて、相手の気持ちや考えを、自分の考えや感情で歪めることなく、その通りに正確に理解していく能力」である『対人理解力』や相手を動機付けるために「社内外の関係者に対して、あらゆる説明の方法やツールを駆使しながら、こちらの考えている通りに相手が納得し、動いてもらうように影響を与えていく能力」である『対人影響力』が必須となります。相手を動機付けるためには、「ストレスの高い状況の中でも、自分の感情の起伏を抑え、常に前向きで安定した行動を保つ能力」である自制力も高いレベルが必要となります。そして、会社を継続し次世代に引き継ぐことを考えると、「自分の部下や後輩の能力や技術の現状を正確に分析し、それを更に開発、伸長させる為、育成を行う能力」である『他者育成力』の「あらゆる方法を駆使して、経営者として会社の将来を支える人財を発掘し、経営者候補にふさわしい指導・育成を行う」レベルの発揮が必要となると考えます。

起業した会社を更に発展させていくためには、これらの事を念頭に置いて、自己研鑽を図ることが肝要になるのではないでしょうか？