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靖 伊藤

AHPコンピテンシーコラム第17話


日常で気がついたコンピテンシー。今回は、ある会社での人材採用の際のお話です。

その会社では幾つかの部門を束ねて一つのプロジェクトを推進するマネージャーの採用を予定しており、ある人材紹介会社から2人の候補者の紹介がありました。そのうちの一人(Aさん)は専門的な知識が豊富で、英語も流暢に話し、プレゼンテーションが非常に上手く、面接時に課題を与えられても、即座に対応が出来ました。もう一人の人(Bさん)は、回りとの関係調整が出来、専門的な知識も豊富でしたが、Aさんに比べてプレゼンテーションが今一つでした。そのため、会社は前者を採用しました。ところが、3ヶ月間でAさんは退職することになってしまったのです。理由は周りの人と協調することができず、コーディネーターとしての役割が果たせないことがはっきりしたからです。

それでは、Aさんはどのようなコンピテンシーとスキルを持っていたのでしょうか?まずスキルとしては、業務に必要な豊富な知識と英語によるコミュニケーション能力を持っていたことは間違いありません。また、面接時のプレゼンテーションの様子を考えると、ある程度のレベルの対人影響力はあったと推定できます。しかし、「相手の人間的な特性を敏感に見抜き、その特性に合わせた説得方法を事前に綿密に準備をした上で、相手が聞き入れるまで諦めずに説得を続ける」というレベルの高さはなかったと考えられます。会社がAさんに期待した役割は色々な部門を調整してプロジェクトを完遂させることでした。つまり、少なくとも「相当な無理難題以外は日頃の友好な関係により、こちらの言い分を喜んで聞いてくれるような親しい関係を構築する」レベルの関係構築力や、「全社的な組織関係、風土、意思決定システムなどの構造を全て理解し、その対応策や活用策を考え、実行する」レベルの組織活用力に加え、先に述べたレベルの対人影響力を持ち、且つ、「業務遂行や問題解決に際し、様々な方法を状況に応じて柔軟に使い分ける」柔軟性をもつ人材こそが会社の求める人材要件であったのです。しかしながら、面接時に、Aさんが示した知識、英語能力やプレゼンテーション能力が余りにもすばらしかったため、それに目を奪われて、期待している役割を全うするための肝心の能力を測ることを忘れて採用してしまった典型的な例といえるでしょう。

これは一つの例で、Aさんが力を発揮できる職場はもちろん存在します。それは、Aさんの強みを活かす成果を会社が求めるケースです。よって、採用の際には、会社がその人に期待すること(成果)を明確にして、それを実現するために必要な能力を実際の職場でどのように発揮してきたことを見極めることが肝要なのです。

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