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靖 伊藤

AHPコンピテンシーコラム第27話

日常で気がついたコンピテンシー。 今回はある自動車販売代理店の営業マンのお話です。

それは、私がはじめて車を買った時のことです。近くにある販売店を幾つか訪れたのですがその中に、一つの自動車会社の別系列の2つの販売店がありました。最初に訪れた販売店のセールスマン(A氏)は指定した車の値段を尋ねると、その値段を教えてくれたり、仕様や燃費のことを聞くとそれに対して答えるなど一つずつ答えてくれたりしましたが、次に訪れた販売店のセールスマン(B氏)は値段のことを尋ねると、その値段はもちろんのこと、オプション価格も含めて簡潔に答えてくれて、スペックや燃費に関しても、こちらが次に尋ねようとすることも含めて答えてくれました。そして、B氏は翌日に、話した内容をまとめて、前日の見積とは別の車や仕様などを網羅した資料を自宅に持って来てくれ、短い時間で説明して帰っていきました。その時の説明はあくまでも車の内容に関することで、購入を強いるようなことはありませんでした。それに対して、A氏は私の訪問から10日後に「ご検討の結果は如何でしょうか?」と電話で訊いてきたのに対し、この結果、どちらの販売店から私が車を購入したかを想像することはたやすいことでしょう。

 それでは、この二人が発揮したコンピテンシーを見てみましょう。まず、顧客志向力の観点で見ますと、A氏が「顧客からの直接的な要求に対しては対応しているが、自分から顧客満足につながるようなことを察知し研究したり、それを行動に移すことはしたりしていない」レベルに対し、B氏は「顧客の様子から相手が求めているものを敏感に察知し対応している」レベルを発揮しています。また、対人理解力の観点においても、A氏は「はっきりと言われたことは、その趣旨を理解している」レベルであるのに対して、B氏は、私のその時の表情から購入する可能性を感じ取り、次の日に訪問してそれを再確認しています。これは「言葉では明確に表現されていないことでも、相手の雰囲気から正しく理解している」レベルといえるでしょう。そして、契約締結に重要な対人影響力の面では、B氏は私が質問することから、私が興を持っている点を感じ取り、翌日、それをまとめてもってくるという「何か相手を説得するに際し、事前に最も効果的な方法を考え、綿密な準備(理論武装、説明資料など)をした上で説得し、相手が聞き入れるまで諦めずに説得している」レベルを発揮して、見事に契約締結に至ったわけです。


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