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靖 伊藤

AHPコンピテンシーコラム第58話

日常で気がついたコンピテンシー。 今回はファーストフード産業のお話です。

 ファーストフード産業はマニュアルによる指導をベースとしています。しかし、マニュアルの受け止め方は、従業員個人によって異なっているようで、本来の目的を理解して実施する人もいれば、形だけを実施する人など様々です。

私は、出張中に、チェーン展開をするある牛丼屋さんへ入りました。その時は、時間が早かったせいか、まだ中は誰もお客さんは一人もおらず、そこの店員さん(店長だったかもしれませんが)は黙々と仕事をしており、私が入ってメニューを見ていると、せき立てるように「ご注文は?」と訊いてきました。食べている時も、せかせかと生姜入れを入れ替えたり、掃除をしたりで、じっとしているときはありませんでした。勿論、「失礼します」とは言うのですが、私はやはりせき立てられる気分になってしまい、慌てて食事を取ることを余儀なくされ、うっかり代金を払わずに出てしまうところでした。その後、別の日に同じチェーン店の他の店に行きましたが、そこの店員さんはこちらの注文が決まった頃を見計らって注文を聞いてくれましたし、掃除や生姜の入れ替え等は私の近くに置いてあるものについては食べているうちはそっとしておいてくれました。そのおかげで私はゆっくりした気分で食べることが出来ました。

この二人は同じ社員教育を受けている筈ですから、行動の違いは個人のコンピテンシーの違いであることは間違いありません。後者が、お客さんが注文を決めたのを見計らって注文を取りにきたのは、「顧客の様子から、相手が求めているものを敏感に察知し、対応している」レベルの顧客志向力を発揮しているのに対し、前者は、注文と取ることだけを考え、顧客志向力を殆ど発揮しておらず、後者が食べているうちはゆっくり食べられるように仕事を控えてくれたのは、「言葉では明確に表現されていないことでも、相手の雰囲気から正しく理解している」レベルの対人理解力を発揮したのに対して、前者は自分の仕事を優先してお客の気持ちを察することが出来ず、対人理解力を発揮していなかったことになります。

お客様の気持ちを理解せずに、自分の仕事を優先している人は、結局のところ、本当の仕事をしていないということになるのではないでしょうか。

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