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靖 伊藤

AHPコンピテンシーコラム第93話

日常で気がついたコンピテンシー。 ここ数回にわたり、相手をその気にさせる、つまり、モチベーションアップのコミュニケーションについて、対人理解能力(相手を理解する共感・傾聴型コミュニケーション)と対人影響能力(相手に理解してもらう指示・説得型コミュニケーション)の2つのコンピテンシーの観点でお話をしてきました。相手をその気にさせるコミュニケーションは人財マネジメントの様々な局面で大きな力を発揮します。「部下に仕事を任せる」、つまり、廻りを巻き込んだPDCAサイクルを廻していくためには、Pの局面において計画した内容をきちんと相手に伝え、理解した事を確認することが重要です。そしてDCAにおいては、相手がした事を観察し、そしてヒアリングを行いながら、良い点や良くない点を相手に気付かせていく必要があります。これが育成に繋がります。「仕事が忙しくて教育等している余裕がない。」という事を時折お聞きします。こういう方の大半は、Off-JT(研修等仕事場を離れた教育)を想定されているか、或いは、自分の手を止めて部下の面倒をみる事に対して、少し嫌悪感を持たれているのではないでしょうか?

実際、私も以前、部下がこちらの思い通りに動かないと、「自分でやった方が早いじゃないか。」と思い、仕事を取り上げてやってしまった経験が多々あります。その結果はどうだったでしょう。結局は部下は成長が遅くなり、それだけでなく、私に対する信頼感も芽生えず、長い間、自分一人で仕事をすることになり、自分で自分の首を絞めてしまったのです。振り返ってみると、総合商社に入社した当時に、私の面倒を見て頂いた指導員や先輩、上司の方々は同じような歯がゆい思いをしながらも、将来を見て育てて頂いたことを最近になってやっと実感する次第です。

私はコミュニケーションに関わる研修をする際に、「指示・説得型コミュニケーション」の演習で、「仕事をし始めてから今までで上司とのやり取りで未だに納得のできない事を3項目、書いてきて下さい」という事前課題を設定し、演習ではトリオで一人が上司の代弁者になって頂き、この事前課題を読んで、10分間、本人に説得をして頂いています。5分間はどのように説得するかを考案して頂き、その後で説得のロールプレイに入ります。この演習では人様々で、自分の考案した説得のシナリオに沿って話していく人や、相手の話をじっくり聞いて話す人等に分かれます。しかし、最も相手の気持ちを動かしたのは、9分間、相手の話を傾聴し、最後の1分間だけ、自分が感じた事を述べた人でした。3人のうち、一人はオブザーバーとして、2人の状態を観察して頂くのですが、オブザーバーから見ても、本人の心の動きが感じられたという発表がありました。

このように考えると、相手をその気にさせる為に、先ず必要になるのは、対人影響力ではなく、対人理解力ではないかと考えます。相手の話を傾聴し、分からないところは質問して引き出し、そして気付かせていく、これがあって初めて対人影響能力が生きてくると確信しています。

 

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