AHPコンピテンシーコラム第154話
- 靖 伊藤
- 2024年12月25日
- 読了時間: 3分
環境の変化を正確に捉え、それに的確に対応することがビジネスの成功に繋がることは周知の事実であり、上級管理職にはこれが求められています。しかしながら、現実として、それを実行する事は容易いことではありません。だからこそ、常にアンテナを立てて情報を収集し、それらの意味することが何かを考えることが必要なのでしょう。
法改正も環境の変化の一つです。以前、朝の情報番組で、法改正をビジネスチャンスとした経営者A氏が取り上げられていました。この時、取り上げられた法律は“食品リサイクル法”で、食品廃棄率を低減する為、業種別に定められていた廃棄量が厳しくなったことを逆手に取ったものです。食品には、消費期限と賞味期限がありますが、賞味期限については、実際にはその3分の1、つまり賞味期限が12か月であれば、4か月を超えると、メーカーからの出荷が難しくなり、8か月を超えると店頭にも並ばなくなるという暗黙のルールがあるとのことです。そこに目を付けたのがA氏で、賞味期限の3分の1を超えたものを買い取り、インターネットで安売り店に販売しているというものです。これを聞くと、「それじゃ、メーカーが直接売った方が良いのでは?」という疑問も生じますが、メーカーは直接安売りを行うことによる“ブランド力の低下”を恐れており、直接安売りすることを避けていたという現実があったとのことです。A氏は、これらのメーカーの担当者や安売り販売店の担当者との接触を通して、ビジネスチャンスがあると確信し、この事業を始め、業績を伸ばしているということです。
さて、ここで、A氏が発揮したコンピテンシーにフォーカスしてみたいと思います。
まず、安売りを行うことで“ブランド力の低下”に悩むメーカーの問題を一企業だけの問題として捉えず、ビジネスチャンスの種と考え、この仕組みを作り出したことは、「直接に顧客に接し、顧客が求めているものを、敏感に且つ正確に把握し、対応していく能力」である『顧客志向力』の表れであり、「直接多くの顧客に接することで顧客ニーズの一般的な変化や兆候を敏感に感じ取り、その変化や兆候への対応を継続的に考案し自ら実行している」レベルが発揮されていると考えます。また、“食品リサイクル法”の改正により、出荷されない可能性のある食品が増加することにより、メーカーの問題が更に大きくなる、つまり、自社が新しいビジネスを興すことが社会貢献に繋がり、且つ、収益を上げることが出来ると考えた事は、「自分の業務環境において、現状や問題などを正確に理解、整理、分析し、自分としての解決策を考案する能力」である『分析的思考能力』の「情報やデータをただ分析するだけでなく、それに基づく洩れダブりのない原因究明を行い実行可能な対応策を自らで考え出している」レベルの発揮が考えられます。
後で考えれば普通に思えることを他人に先んじて考案し、実行していくためには、今の状態を当たり前と思わず、批判的思考力(クリティカルシンキング)を持って、アンテナを立てて、情報を収集し、それらの情報が指し示す将来の方向をつかみ取ることが必要であることをこの事例は教えてくれた気がしました。

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